第三章

閑話 エスクードと「ルイジアナ ペリック」


前回の『パイプ煙草のラプソディ』、久方ぶりのテイスティングが思いの外好評価だった・・・・・・かどうか知る由もないが、「パイプを楽しむ」に入る前に、今一度タバコそのものに焦点を当てて行こう。
テイスティングしたのは『エスクード』。
ところがここで面白いことが起きた。
在庫していたエスクードだが、小さい缶と大きな缶、製造年代の異なるものである事が判明した。
折しも、エスクードのテイスティングの準備でネット検索をしていた時、「ペリック葉の現状」を入手する事となった。
それでは、ペリックの最新事情を交えながら、それをネタに話を展開して行こう。


(昨今のペリック事情)
イングリッシュミクスチャーを支える加工煙草、代表的なものはラタキア、そしてペリックだ。
特にペリックは、ヴァージニアブレンドを美味しく楽しむ、または、親しみやすい味わいにする、そんな時には無くてはならない加工煙草である。
このペリックであるが、煙草の漬け物と称させるもので、昔から別名「ルイジアナ ペリック」と呼ばれ、米国ルイジアナ地方で栽培された在来種の煙草を、加工したものが世界のシェアを閉めていた。
しかし、昨今の煙草事情もあり、現在ルイジアナでペリック葉の栽培をしている農家が一軒だけとなり、アメリカンスピリッツ社の独占契約になってしまったとの事だ。
従って、現在出回っているペリック葉は、ケンタッキー葉などのタバコをペリック加工したもので、本物のルイジアナ ペリックとは違うとの事である。

前回取り上げた『プロムナード』『桃山』は、日本での入手が最も容易く、且つ分かりやすい味わいのタバコと言う事で、「パイプ喫煙の入門用」としての扱いになる予定である。
それに比べエスクードは、上級者向けとは言え、「分かりやすいイギリスタバコ」の位置づけだと考えている。
言い換えれば、上級者向け煙草であるイギリスタイプ、その入門用的な存在がエスクードと言う訳だ。
ペリックの酸味が効いた、味わい易いヴァージニア系のタバコで、名前通り(ポルトガルの旧通貨 エスクード)のスパンカットであり、見た目の面白さなど希少性も高い。
ただし、日本では手に入りづらいと言う欠点がある。
理由は、日本での販売がされていない事で、現在は個人輸入に頼るしか無い。
かく言う私も、所有しているエスクードは随分と昔に、個人輸入していたパイプスモーカー仲間から、声をかけてもらい購入したものだ。
従ってその時の在庫しか、もう残っていないのが現状である。
そんな訳で、パイプ界では超有名な煙草であるエスクード、『パイプ煙草のラプソディ』での掲載は予定していない。
でも、折角持っている「最後の在庫」であるので、記念も兼ねてここでテイスティングをしておこう。

しかし改めて缶を開けてみると、どうやら古いものと、新しいものとになっていたようだ。
右側の小さい缶が個人輸入で古いもの、左の大きい缶は、日本語の警告文が張り付けてある事から考えて、日本の輸入業社が仕入れた、新しいものだと思われる。
とりあえずは、古いものから準を追って吸って行こう。
まずは製造国の表記から。
何故か古いと思われる缶の表記は、「メイド イン ザ キングダム オブ デンマーク」となっている。
これに対し、新しいと思われる缶の表記、底に張られているシールには「メイド イン ザ EU」とあるが、フタの側面には「メイド イン デンマーク」の印刷がされている。
はてさて、この辺りの仕組みはどうなっている事やら。
まあ、あくまでも閑話であり、ネタとしてのテイスティングなので、話を先に進めよう。
まずはティン・ノート(缶を開けた時のタバコの香り)になるが、新しい缶の方はツンとした酸味のあるヴァージニアタバコ。
古い缶は、ややすえた匂いがある漬け物風味の酸味である。
これは経年劣化によるものなのだろうか、それともネットの一部で噂になっていた「ペリックの産地変更」によるものなのか、この辺りは定かではない。(昔なからのルイジアナ ペリックは、アメリカンスピリッツ社の独占契約になった為、現在のペリック葉は、ケンタッキー葉などのタバコをペリック加工したものとの事)

もっとも、「パイプタバコの味わいは引き算」の理論に従えば、新しい缶の方が乳酸発酵的な酸味が立つと言う事にはなる。
ただし裏を返せば、「深みが足りない」事にもなるが。
そんな理由もあり古い缶は、酸味の立ちは控えめに感じるが、その分ティンノートに厚みが有る。
ひいき目な表現をすれば、「すえた感じの旨みを持つ、重層的な酸味」とも言える。
またタバコの湿り具合だが、新しい缶はコインの形状がしっかり残っていてベタつく感じは無い。
それに比べ、古い缶は内装の紙を見ても分かる通り、湿り気とタバコのベタ付き感が強い。
経年劣化もあり、タバコに被せてあった紙にタバコがくっついて剥がせない程だった。
この古い缶の煙草に見える「タバコ葉のベタつき」、20年前勉強の為に購入した「トーベンダンスクのペリック単葉」で感じたベタつきと、良く似ている気がする。

早速火を点けてテイスティングを開始する。
手探り気味に煙が落ち着くのを待ち、タバコの香りと味わいに集中する。

「ああ、そう言えば20年以上前、吸った事のあるペリックはこんな感じだった。」徐々に記憶がよみがえってくる。
この古い缶のエスクード、沢庵の古漬けの様な独特の臭み(高菜漬けもしくは、つぼ漬け風味とも取れる)、序盤こそふんわりと香る感じだが、中盤以降からは、グイグイ出始める。(悪い表現をすると、臭みと雑味とも言えるが。)

それに比べ、新しい缶はペリック風キャベンディッシュとも取れる味わいで、古漬け感は始終控えめである。
従って新しいエスクード、漬け物感が上品にまとまっている為、よほどキチンと探さないと見つかりにくい。
もし「現在購入できるエスクード」で、ルイジアナ ペリックの古漬け感を味わいたいのなら、「ルーム・ノート(煙を嗅いだ時や、部屋に漂う香り)」に比較的出やすいと思うので一度試してみてほしい。
口から立ち上る煙、それを注意深く確かめれば、ペリックの古漬け感を楽しめる事だろう。
もっとも、本物のルイジアナ ペリックであれば、この古漬け感(高菜漬けの香りと言うか、つぼ漬け風の旨みと言うか表現が難しい)、これが序盤から楽しめる。

まあ、もっとも「古いもの程良い、本物は旨い」と安直に判断するのは早計である。
確かに現在のエスクードで、昔のペリックを味わう事はできなくなったと思うが、その代わりと言っては何だが、ヴァージニアの甘みを補完するさわやかな酸味を楽しむのは、こちらの方が向いていると思う。
ここに、「パイプ喫煙で一番大事な事は、何を楽しみたいかを明確にする事。」の真意がある。
歴史的な検証を楽しむのであれば、ペリックの新旧に差があった方が面白い。
また、サッパリとヴァージニアを楽しむ事を求めるのであれば、新しいエスクードに軍配はあがる。
理由は、ルイジアナ ペリックは少々クサイ煙草に分類できるからである。
もっとも「癖になる味」と言う観点から見ると、圧倒的にルイジアナ ペリックの方が上だが・・・・・・

まあ、昔話を美化してもせんの無い事である。
確かに現在では、本物のルイジアナ ペリックは味わう事が出来なくなったのかもしれない。
寂しい事この上無いがしかし、本物のルイジアナ ペリックで無いとは言え、そこは流石にペリック、腐ってもタバコの漬け物である。
(腐っているのでは無く、発酵しているのだが・・・・・・)
新しい缶のタバコでも、喫煙の終盤に「甘めの浅漬け風味と、タバコの雑味の間」に、ヒョッコリとルイジアナ ペリック風の香りが顔を出す事もある。
この高菜漬け&つぼ漬け風の旨み、感じる事ができたのなら「おめでとう御座います」、これがルイジアナ ペリックと思ってもらっても、当たらずと言えど遠からず。

しかし古いエスクード、じっくりテイスティングして分かったが、マクレーランドを彷彿とさせる味わいを感じる。
あのマクレ独特の、酸味のある旨み。
新しいエスクード缶からはあまり感じられない事を考えると、ルイジアナ ペリックに原因はありそうだ。
もしかすると製造を終了したアメリカの勇マクレーランド、あの独特な旨みはルイジアナ ペリックを使用しないと出せないのではないかと改めて思う。
トマトケチャップやミネストローネとも感じる酸味の効いた煙草のブレンドに、ルイジアナ ペリックが大きなウェイトを占めているとすると、マクレーランドの製造終了とアメリカンスピリッツ社によるルイジアナ ペリックの独占契約、同じ様な時期に起きた二つの事象には、何か因果関係があるのかもしれない。

(一口メモ)
ルイジアナ ペリックもマクレーランドも無くなった今、昔を懐かしみたい人に、現在購入可能なエスクード、これで昔を偲ぶことはできないか挑戦してみたので一口メモである。
今回エスクードを色々と試して吸ってみたが、古漬けの様な旨み、現代のパイプ煙草の主流である甘みとは別の味、塩味(注1)とも言えるすえた感じの味わいだが、これを出す為には、できるだけフレイク(円盤)を崩さず詰めた方が、より感じやすいと思ったので老婆心まで。

(注1) 塩味 : 何度かテイスティングして感じたのは、ミネラルの匂いと言うか、レバーに含まれる血(鉄分臭さ)の感じとも表現できそうだ。


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