第三章

8.パイプ喫煙とフィルター


パイプ喫煙はジュースとの戦いの歴史である。

加熱式煙草の登場で喫煙の真の姿が明らかになった。
喫煙とは、タバコ葉に含まれる旨味や香りを気化させる事によって行うものであり、そもそも水蒸気が無ければ始まらないものだと言う事が判明した。
しかし、過ぎたるは及ばざるが如し。
過剰な水分は、味わいのメリハリを損ない、味わいをボケさせる事につながる。
かと言って、水分を吸収させ過ぎてしまえば、旨味や香りが抜けたスカスカな煙になる。
また、ガンガンとタバコ葉を高温で燃焼させ、旨味や香りまで壊してしまうのはもっての他だ。
他には、湿度の高い環境は、タバコを味わう事を阻害するなども分かって来た。


タバコを楽しむ為には、旨味や香りの成分を気化させなければ始まらないが、過剰な水分や湿気は味わいを阻害し、ジュースとなって喫煙を邪魔する、まさに「パイプ喫煙の矛盾」である。
この矛盾、パイプ喫煙の宿敵とも言えるジュース、その対策として誕生したのがフィルターであり、各種のシステムパイプであると言っても過言では無い。
では話はついでである、パイプのフィルターについてもひとくさり。


ここでお恥ずかしい実体を暴露するが、以前の私は「フィルターの使用は、タバコの味を悪くするだけだ。」との思いこみで忌避していたのが実際である。
またタバコ専門店で、「備え付けのアルミフィルターは、アルミの味がするからと、使わないお客様もいる。」と聞くなどもあり、パイプ上級者はフィルターを外すものだ等と、格好を付けて喫煙したものだ。
しかしある時、フィルターについて考えさせられる事に遭遇した。
それは、中古品のダンヒルパイプを手に入れた時の事だった。
手に入れたパイプには、ダンヒル特有のアルミチューブフィルターが装着されていた。
もっとも、ダンヒルに限らず同型のアルミチューブフィルターが付いたパイプもあったが、そこは不精者の性、管理や掃除が面倒くさいと言った理由で、無くすか捨てるかしてしまっていた。
しかし、中古で買ったダンヒルのアルミチューブは、見た目が衝撃的だった。
それは今までのパイプでは見かけなかった事だが、ダンヒルのパイプのアルミチューブは、「チャンバーの出口ギリギリまで来ているジャストサイズ」だった事だ。
※チャンバーを覗くと、竹槍の断面形状のアルミフィルターが見えていた。
これは何かの意図があってこうなっているのではないのか、パイプも名門ダンヒルの製品だし、簡単に見過ごす訳にも行くまい。
何やかやで検証の必要があるとにらんで、探してみたらやはりありました。
それが「ダンヒルのパイプ喫煙十二則」。

以下は、私が所持している書籍「THEパイプ」に紹介されていたもので、インナーチューブに該当する部分である。

「ダンヒルのパイプ喫煙十二則」

(2)上質の煙草の繊細な味を楽しむために肝心な事は、パイプをきれいにしとくということ。

(3)〈インナー・チューヴ〉がその点を保証してくれること。

過去、様々なフィルター(インナーチューブを含む)見てきたが、どれもジュース対策か、タバコ葉が口に入るのを防ぐ位の目的しか無かったと思う、しかしダンヒルは違った。
十二則にもある通り、「パイプをきれいに保つ為」が目的となっていた。
インナーチューブとマウスピースのみに煙を通し、エアホール(煙道)とダボ穴に煙が行かないようにする事で、汚れない様にする。
これがインナーチューブの真の目的だった、まさに目から鱗である。
長年ブライヤーパイプを扱って来た人なら分かると思うが、パイプで一番掃除がし難いところは「煙道とダボ穴」で、喫煙の度にモールで掃除をしても、タバコのヤニが付着し煙道は次第に細くなる。
でも、ダンヒルの十二則を守っていれば、チャンバーの手入れとマウスピースの清掃だけ行っていれば十分と言う事になる。
また、パイプの掃除後、一番乾き難いところも「煙道とダボ穴」である事を考えると、インナーチューブの装着は、半日から一日程度の短いクールダウン時間で、再度の喫煙を可能にするとも考えられる。
もっとも、インナーチューブについては賛否両論ある為、付ける付けないの正否は一慨には決められないが、ジュースの発生問題を除けば良く考えられたシステムではある。


ダンヒルパイプでフィルターの存在を見直した訳だが、しかし、現在フィルターの主流になっている9mmのチャコールフィルターは、「ジックリ時間を掛け、タバコの香りや旨味を楽しむ喫煙」には不向きではないかと感じている。
確かに9mmフィルターで、ジュース問題はほぼ解決される。
しかし、「6.加熱式煙草と水蒸気」のコーンパイプのところでも触れたが、過剰な水分の吸着は煙草の味わいを損なう。
私も9mmフィルターの経験があるが、煙がスカスカな感じになるのは否めない。
では、何故こんなにフィルター需要があるのだろうか。
次はあくまでも個人的な想像に過ぎないが、アメリカのパイプ喫煙事情が関係しているのではと考える。

あれはネットで、バーレー葉100%でストレート・アメリカンの代表的な銘柄、「プリンス・アルバート」を検索している時だった。
紹介されていたのはアメリカのホームページであり、そこにはイギリスやヨーロッパのパイプ事情に対抗するように、こんな書き込みがされていた。

「ハンドルを片手で握りながら、ワンハンドでパウチからつまんだ煙草を親指でグッグッとパイプに詰め込み、ライターで火を点けブハーと煙を吐き出す、これが最高。」

こんな具合にアメリカンスタイルのパイプ喫煙が紹介されていたが、オートマティックに肺喫煙を楽しむ為には、9mmフィルターは重宝される事だろうと思う。
パイプ煙草の消費量世界一のアメリカ(昔の情報なのであしからず)の、喫煙事情がこんな具合ならば、フィルターの需要増も頷ける。
がしかし、皮肉な事にアメリカ発祥のコーンパイプにおいては、フィルターの存在が真逆な効果を出していると思えるので、最後にその話題を紹介しよう。

「7.ジュース発生の一考察」のところでコーンパイプの筆卸について触れたが、この時使用したタバコがマックバレンのヴァージニアNo.1だった。
あまり期待もしないで試していたのだが、思いの外美味しく喫煙する事が
できた。
少々疑問に思い、フィルターを外したり再度装着したりしながら、何度か喫煙した結果、コーンパイプに限りフィルターが良い仕事をしているのではないかとの結論に至った。
コーンパイプ用のフィルターだが、非常に単純な構造であり、ぶっちゃけただの紙の筒(6mm)と言ったものである。
今流行りの9mmチャコールフィルターに比べると、その機能は「マウスピースからのジュースの逆流を止める程度」の作りになっている。
しかし、このフィルターの作りが、かえって良い方向に働いているとの結論になった。
それが、「コーンパイプのフィルターは単純な作りが故に、木製シャンクによる水分の過吸収を押さえる役割を果たす事になった。」だ。
結果としてコーンパイプによる煙のスカスカ感が押さえられ、フィルターにより水分が適度に調整される事で、タバコを美味しく楽しむ事ができた訳である。
長々とフィルターについて書いて来たが、ここでフィルターの結論である。
パイプのフィルターには様々なものがある為、定説に惑わされる事なく、仕組みを良く理解した上で、自分の感性で判断するのが吉である。


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