第一章
7.パイプと執筆機材
 

パイプ物語の執筆は「電子手帳」から始まった。
当時私は神奈川から品川に通勤していたが、電子手帳を通勤電車で度々見かけるようになった。
どうみても自分より年上、しかも初老と言ってはばからない男性が、立ったまま電子手帳にスタイラスを走らせている。
そんな姿を目の当たりにし、通勤時間の有効利用が目的で購入したのが執筆用の機材との出会いである。


最初に購入したのがパルム。
朝の通勤電車で、カレンダーに本日の業務を時間毎に記入し、進捗具合をチェックする使い方、簡単に言えばカレンダーをトゥ・ドゥ代わりにする所から始めたと記憶している。
ただしスタイラスでの入力、ちょっとした思いつきをメモるのには適しているが、文章が形をなし始めるとまどろっこしい事甚だしい。


そこで新たに購入したのがパルム専用のキーボードである。
最も愛用したのが、パルム純正のフルサイズキーボード。
四つに畳んでコンパクトに収納できるのが売りだ。
また入力開始時に、キーボードをカシャカシャと広げ、四分割になっているキーをカシャンと真ん中に寄せ、パルム本体を中央のコネクターにパイルダーオンさせるところは、変形ロボットを彷彿とさせ、まさに少年心をくすぐる一品だった。
この頃になると、パルムを会議の議事録などにも利用し始める事になるのだが、昔のCPUは処理速度も遅く、マックススピードでブラインドタッチ(ローマ字入力)していると、途中で機械が追いついて来なくたったりしたものだ。
会議を行いながら、バチバチとキーボードを叩いていると、いきなりキータッチ音がしなくなる。
ハタと打つ手を止めて画面に視線を移すと、パルムが必死でローマ字からカナ変換、次いでカナから漢字変換と間断なく動いている。
中々かわいいと思える挙動で、高速入力を行う時の楽しみにもなっていた。

もっともこれは古き良き時代の現象であり、最近のパソコンなどでは見かけなくなったが。
パソコンと言えばちょうどこの頃、ポケットコンピューターなるものにもスポットライトが当たっていたと思う、所謂モバイルコンピューターの走りである。
当時、私も興味を持ちネットや雑誌で散々検討したものだが、最終的にパルムに落ち着く事となる。
理由は幾つかあるのだが、最初に目につくのが立ち上がりの早さ。
機能が「ほぼテキスト入力のみ」と言った制約があるせいか、立ち上がりは抜群に早かった。
確か、ボタンを押して会社のロゴが表示されてから、作業を開始するまでに十秒は掛からなかったと記憶している。
パソコンの立ち上がりの遅さは当時から問題とされて来たが、創作で必要な事は、思いついた時に取りあえずメモができる事だ。
電源を入れてからOSが起動するまでに何分と言った、パソコンの環境では執筆活動には対応しきれない。
また、多機能であるが故に立ち上がりも遅く高額となるポケットコンピューター、この多機能が曲者と言われていた。
あれもこれも出来、ついでにおまけのゲームまでもがインストールされていた。
確かにパソコンは便利であるが、その多機能さが執筆にはかえって邪魔になる、インターネットではそんなレビューも多かった。
テキスト入力のみの尖った機能、これがパルムを選んだ第二の理由だ。
以上、執筆生活にパルムやポメラを選んだ理由まとめると、「総合的に見て手軽に使える機材かどうか」になる。
パイプスモーカー用の執筆機材は、様々なシチュエーションでの作業を要求される。
ごく小さなスペースでの入力、ソファにもたれた状態での入力、さらには片手で持ったままや膝の上でと、ありとあらゆる状況で、手軽に作業ができるものが必要とされる。
これがデスクトップパソコン等の、固定された環境を必要とするものであっては、執筆作業を中心にした環境整備になってしまい本末転倒である。
あくまでも我々パイプスモーカーには、パイプ喫煙を中心に考えた執筆環境の整備が望ましい。
パイプをくゆらし思考を遊ばせる、そこを土台として執筆を展開する、これが継続と長続きの秘訣である。
そんな理由で、手始めにパルム、次にはポメラと言った機材を選ぶ事となった。
何せこれらは、高々乾電池2本で10~20時間の入力を可能にしてくれた。
交換用の予備電池2本さえあれば、どんなシチュエーションでも執筆が可能となる、実に力強い味方である。


現在は愛知県在住であるが、美濃・尾張と言えばモーニング発祥の地。
一日を仲間内とのモーニングから始める、そんな地元住民に支えられている喫茶店も多い。
また、喫煙フリーの店も多く(現在は過去形となってしまってはいるが)、ユッタリとした時間をコーヒー一杯で提供してくれる店には不自由しない土地柄だ。
モーニングを済ませ、コーヒーをチビチビやりながらパイプに火を入れる。
次に紫煙を漂わせながら、おもむろにポメラを広げて書き物の続きを始める。
店員などから若干の注目を集めるなどもあり、一端の文豪気取りを満喫できる一時だ。
これもパイプスモーカーならではの特権と言える。


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